韓日ハーフの子どもたちに両親の言語、文化の継承を
韓国と日本の人的交流が活発になる中、国際結婚も増えている。韓国在住の韓日カップルやその子どもたちは韓国文化に適応し、韓国人として生きていく。子どもが成長するにつれ2カ国語を使えるようになる場合もあるが、どちらかの言語を忘れることも少なくない。このような韓日ハーフの子どもたちに日本語を教える民間教育ボランティア団体「釜山日本村」がある。
同団体は釜山外国語大学の教授陣が中心となって発足し、釜山市や蔚山(ウルサン)市、慶尚南道(キョンサンナムド)在住の韓日カップルの子どもたちを対象に、毎週日曜日の午前中に授業を行っている。授業に参加しているのは現在20人前後。多い時は約60人が一度に授業を受けることもあった。彼らは言語のほかに、日本の文化や自身のアイデンティティについても学んでいる。
釜山日本村は2012年から本格的な活動を開始。釜山外国語大学日本語融合学部教授の鄭起永さんを中心に、同大学の日本人教授陣とスタートさせた。12年間休まず活動を続ける鄭さんに、釜山日本村創立の理由や今後の計画について話を聞いた。
△非営利民間団体の釜山日本村は、毎週日曜日に韓日多文化家庭の子どもたちに日本語を教えている(左の写真は釜山日本村が子どもたちと開いた運動会)。 写真提供:釜山日本村
[インタビュー]
釜山外国語大学 日本語融合学部
教授 鄭起永(チョン・ギヨン)さん
非営利民間団体 釜山日本村(ぷさんにほんむら)創立者
「韓国人と日本人の国際結婚によって生まれた多文化家庭(国際結婚家庭)のためのサポートは充分ではありません。政府や自治体支援は、中国や東南アジア出身の移住者と結婚した家庭対象の経済的な支援を中心に行われています。韓-日の多文化家庭のための文化・情緒的な支援のため、同じ志を持つ教授仲間と釜山日本村を創立しました」
鄭さんは東海大学で日本語教育学を専攻し、修士・博士課程を修了後、1994年から釜山外国語大学で日本語を教えている。韓国人に日本語を教える仕事をしていく中で自然に日本人との交流が増え、釜山在住の韓日多文化家庭の事情にも詳しくなった。彼らの家庭内では何語を使うべきか、相談を受けることもあった。
2008年~2009年にアメリカのプリンストン大学に交換教授制度で赴任した際、日米の多文化家庭の子どもたちを対象にした日本語教育を行う課程について知った。早くから移民を受け入れていたアメリカでは、多文化家庭で外国人である両親の母語を中心に会話することを推奨している。長年の調査と研究の末、両親が使用する母語のアイデンティティを継承する子どもが社会的、経済的にもうまく適応し、世代間の摩擦も大幅に減ったという研究結果によるものだ。
鄭さんは帰国後、2010年から釜山日本村の創立準備に取り掛かった。志を同じくする教授陣とともに参加者を募るなど、約2年間の準備を経て2012年から釜山日本村の活動を本格的に開始した。
現在釜山日本村は幼稚部、初等部で運営している。鄭さんは言語形成は幼少期に完成し、中学生からは第二外国語などで日本語を学べる学科課程があるため、小学生までの子どもたちを対象に運営していると話す。
釜山日本村の活動は子どもたちだけでなく、両親にもいい影響を与えているともいう。「韓日の多文化家庭で起こりえる摩擦や経験を共有することで、両親の間、子どもたちの間にネットワークができていきます。自身のアイデンティティを認識しながら所属意識が得られ、文化的問題の解決にも大きく役立っています」こうして育った子どもたちが、韓国と日本の架け橋の役割を担っていくと付け加えた。
釜山日本村の活動を広げていくため、釜山や蔚山、慶尚南道在住の韓日夫婦について調査し、夫婦を対象に父母教育を強化していく。また地域社会と共同し、教育内容の充実化などで更なるシステム整備に取り組むつもりだ。
韓国と日本の交流は今後も拡大し、多文化家庭も増え続けることが予想される。このような時代に、文化的な衝突は必然的に起こりうる。釜山日本村で学んだ子どもたちや家庭、彼らとつながる人々、社会はこれらの摩擦を防ぎ、社会に良い影響を与えるだろう。釜山日本村の活動と努力に、今後も注目し続けたい。